- 【2010年 09月 24日】
- 「日仏マナーのずれ」3 薮内宏 (イラスト 芦野宏)
キッス
アメリカ人男性がインド人女優にキッスしたことにヒンズー教徒インド人が憤激したニュースがありました。
このようにキッスは世界的ではありません。戦前の日本では、外でキッスするのを目にすることは全くなかった。今でも、日本人は路上や公共の場所でキッスをするのはかなり稀でしょう。
「男女七才にして席を同じゅうせず」の時代でなくなったのに。やはり人目が気になるからでしょうか。人前でキッスすれば、誰かさんと誰かさんの間柄はあやしい、と隣近所で評判になり、有名人でしたら週刊誌はかっこうの話題にしますね。もっとも、フランスでは、サルコジ大統領が離婚したはかりであるのに、早々とイタリア人女性と再婚しているのは驚くに当たらないことです。欧米社会では、周知のように、路上でもキッスはごく一般的に行われています。ほほへのキッスが一般的です。額へのキッスもあります。子供に対する場合です。フランスでは、両ほほへのキッスは、親しみと歓迎の印です。
ホームスティで、日本人女子留学生にはその経験をした人は結構いるでしょう。強い歓迎の印です。キッスではないが、親しい男同士が抱き合って、相手の首に手を回して、背中を軽くたたいて友情の印を行動で示すのは珍しい事ではありません。男女間でも、特に親しい間柄でしたら男はそうします。日本人同士では恥ずかしくてそうできないでしょう。唇へのキッスは肉感的すぎるので、恋人専用です。首へのキッスもそうです。言葉の上では「baiser」(キッスする)は肉感的ですので、「embrasser」(ほうようする)と言うと誤解されずに済みます。ベニスでは、サンマルコ広場で6万人の集団キッスで元日になる真夜中に2008年の到来を祝いました。
ベニス市のサイトには、2008年は愛の年になる、と書かれていたそうです。ニュースでは、見出しは「巨大な集団ベゼ」でしたが、集まった人たちの行為をやはり「ベゼ」ではなく、「アンブラセ」と記してありました。フランス式の女性の右手の甲へのキッスは、女性が手の甲を上向きにする手の差し出し方でフランスの紳士にすぐ判ります。もっとも、この方式は、路上では行なわれません。
日本でも、道路では、京都式の長いあいさつはおかしいし、深いお辞儀は人の行き来の妨げになるでしょう。日本人がまねをするとおかしいですが、女性が片足を引いて、手でドレスを軽く広げるようにして膝を曲げておじぎをする、高貴な方に対する上品な挨拶法もあります。自分の手にキッスして、離れている所にいる親しい人に向かってその手を勢いよく振る投げキッスもあります。