【2013年 01月 30日】
「日仏マナーのずれ」31 薮内宏

レストランのシェフ
 おいしいものを食べると、楽しい気分になります。酒席は別として、料亭とレストランのどちらでもそのためにゆっくりくつろぎたいかと思います。 しかし、単に空腹を満たし、仕事に専念しなければならないとき、止むを得ず早食いになります。食べる早さでは、日本のビジネスマンの右に出る外国人は少ないでしょう。フランスで三つ星級のレストランで働いていた人の言でも、食べる早さで日本人か、他のアジア人かどうかはすぐ分かるそうです。良く噛むとぼけ防止になるそうですからゆっくり食べるに越したことはないでしょうに。

 いつか東京の青山墓地近くのフランス人シェフのレストランで、私の後から入ってきたアメリカ人と日本人ビジネスマンらしい人たちがが会話をしながら急いで食事を済ませて、そそくさと出ていったのを見て、シェフは、肩をぴょんと上げ下ろしして(あきれて、とか馬鹿馬鹿しいを意味するジェスチュア)私と苦笑いをしたことがあります。フランス人にとって、レストランでの食事は空腹を満たすだけでなく、楽しむものだからです。

 最近のフランス人は、アメリカのビジネスマンの影響でタイム・イズ・マネーの時代に突入せざるを得なくなりましたので、食べる速度は戦前よりも早くなりました。今は機械やインターネットは便利でその全盛ですが、チャップリンのモダン・タイムスと言う映画通りに、機械、インターネットに振り回される時代になって、生活を楽しむのがかえって難しくなったのは妙です。

 レストランでは、シェフの権限は配下に対して絶対です。料理の出来不出来はシェフ次第です。フランス料理に限らず、日本料理や中国料理の板前が変わると、同じ料理名であっても、味が微妙に異なることは珍しいことではないでしょう。私の知人の料理研究家の感想でしたが、知り合いのシェフがまだ若いとき、皇族方が食事に見えて、緊張すると、塩加減がちょっと濃くなる、と言っていましたので、体調を整えるだけでなく、気持ちも良好な状態に保つのは大変だなあ、と思いました。

 食事が終って、シェフが調理場から出てきて、テーブルに近づいてあいさつに現れることがあります。日本料理もそうですが、フランス料理では特に創意工夫を凝らし、ありふれたドミグラスソースなどで間に合わせることをしません。私もずっと以前、いわゆるフレンチドレッシングのレシピを知人のために訳したことがありましたが、30種以上あったように記憶しております。

 シェフは、そのレストランの料理の責任者です。料理は一人ではなく、何人かのコックの分業の結果です。シェフは作曲者を兼ねたオーケストラの指揮者のような者です。自分の料理がお客の好みに合うかどうかは気にかかるので、お客の感想を聞きに出てきます。日本では、グループで食事をするとき、拍手して称賛することがありますが、それは恐らく日本だけに見られる現象でしょう。フランスでは、拍手しません。

 親指を立てて、おいしかったことを表す人がいます。他の場合でも、よかったことを示す行為です。親指を下に向けるのは逆の意味で、いやだった表現です。日本とはかなり違いますね。中指は絶対に立ててはいけません。男性のシンボルであり、きわめて下品で、大きな侮辱を与えることになります。当人の品位も疑われます。

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