- 【2012年 04月 25日】
- 「日仏マナーのずれ」17 薮内宏
ナイフとフォーク
ナイフとフォークは、その用途に応じて形状が異なります。肉料理のは大型で単純な形をしています。魚料理のも大きく、ナイフの刃の巾はもっとあって、模様が刻み込まれています。バター用とデザート用のは小形です。お皿の向こう側に置いてあります。フォークはお皿の左側、ナイフは右側に置いてあります。使用の順序に応じて外側から取れるように置いてあります。左利きの人は、ウエイターに頼めば、逆に置き換えてくれます。食べるとき、パンはナイフではなく、両手で一口づつちぎって、左手で口に運ぶのが普通です。イスラム教徒やインド人と違って、左手を不浄の手とみなしておりません。
さじと違って、食卓でのフォークの使用は大分遅く、随想録で知られている16世紀のモンテーニュでしたか、急いで食べると自分の指をかんでしまう、と言っていたように、手づかみの食事も当たり前で、骨付きの肉料理の骨に刻み目のある紙が巻きつけてあることがあるのはその名残でしょうか。ごちそうを前にして、にこにこしながら手をこすり合わせている男性も一度ならず見ました。
日本では、寄せ箸、迷い箸、探り箸をすればしかられますが、それはまだよいとしても、突き立て箸や人からお箸で渡されたものをそのまま自分のお箸で受け取るのは厳禁ですね。私も大分後から初めてその理由を知りました。話に夢中になってお箸を振り回す大人も、フランスでしたら、「マレルヴェ」(育ちが悪い)と言われます。話をしながらナイフかフォークを振り回す人を見たことは1度もありませんでした。子供は、スープのお代わりを要求するためにスープ皿を叩けば、親にしかられます。「ビャンネルヴェ」(育ちがよい)と言う表現は家柄には無関係です。ありえないことですが、ナイフ2本をX字状に置くのは、キリストの受難を連想させるので、絶対にだめです。
食事前のフォークの向きは、フランス式では、先の方を下向きにしますが、イギリス式では反対です。紋章が柄に彫ってあった向きが原因であるように聞いております。
以前にはフォークを右手に持ち替えて食べるのが正式でした。左利きの人はともかく、右利きの人は、急いで食事をしなければならないときを除けば、フォークを右手に持って食べる方が楽なのは言うまでもないでしょう。戦前では、肉は半分ほど切ってからナイフを置いて、フォークを右手に持ち替えて食べるのが正式でした。急いで食事をするのにフォークを左手に持ったまま食べるのは確かに具合が良いが、それはアメリカの影響でしょうか、フランスでも、この方をスマートだと思う人が増える傾向にあります。身のくずれやすい魚や細かく切った野菜はフォークを右手で持って、すくうとき、一口大に千切って左手で持ったパンでせき止めるようにするとフォークに乗せやすく、フォークを左手に持ったまま、ナイフでせき止めるよりも食べやすい。食べた後、そのパンを口に入れればよい。
ご飯類も、右手に持ったフォークですくって食べるに越したことはありません。要するに無理をしないことです。また、傍から見ても、その方がきれいです。しかし、イギリス式では、フォークの背に乗せることになります。食べにくいと思います。食事中、ナイフとフォークは「ハ」の字状に先をお皿に寄り掛からせるので、話に熱中すると、落としてしまう恐れがあります。イギリス式でしたら、お皿の向う側の近くにフォークの内側にナイフの先を乗せます。
料理を食べ終わったら、ナイフとフォークを並べてお皿に乗せます。お皿の右側、横向きに、フォークの向こう側にナイフを並べて、刃をフォークに向けて置きます。少し斜めに置くと見栄えがよいように思います。食べ残す場合もそうします。黙っていてもウエイターがそのお皿を下げてくれます。イキリス式では、ナイフとフォークは柄を手前にして、縦に置きます。
和食でしたらお箸をご飯茶碗に揃えて乗せれば食事が終わったことが分かり、食堂では、割り箸の先を元の紙袋に入れて、紙袋の閉じてある方を折り曲げれば使用済みであることが分かります。ある家でごちそうになったとき、仕出屋から運ばれたものに添えてあったお箸の内、使用済みのが一膳混ざっていたことがありました。紙袋が未使用同然で、お箸がきちんと揃えられていたので、仕出屋で新品と混同したようです。