- 【2013年 11月 25日】
- 「お気に入りのシャンソンを聴きながら お洒落にカジュアル・フレンチ」5 渡邊みき
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『お気に入りのシャンソンを聴きながら
お洒落にカジュアル・フレンチ⑤』 渡 邊 み き第5回:”Sous le ciel de Paris” & Cuisine familiale, formule à la parisienne”
『パリの空の下』&パリで楽しむ家庭料理「ポタージュ・サンジェルマン ア・ラ・ジャポネーズ」
「ハンバーグステーキ カフェ・ド・パリ風」今回のテーマは『パリの空の下』。舞台は花の都パリ。誰もが憧れる街といっても過言ではないでしょう。美しく建ち並ぶアパルトマン、中世を思わせる昔ながらの石畳、セーヌ畔のベンチで愛を囁きあう恋人たちの姿、カフェのテラスに佇むモダンなパリジェンヌの振る舞い、どれをとっても絵になる風景ですね。さて、そんなお洒落な街に出会ったのは二十歳の頃。初めての渡仏、パリ郊外でのホームステイ先でマダムが作ってくださった料理を懐かしく思い出しながら、今回は「パリで楽しむ家庭料理」と題して、シンプルで美味しいメニューに日本の香りを添えてご紹介したいと思います。
さて、シャルル・ド・ゴール空港から向かった先は、ベルサイユに近いガルシュ(Garches)という閑静な住宅街。当時、商社勤務の父の同僚でプライベートでも親しくさせて頂いていたフランソワと奥様のパトリシアのお宅に滞在させて頂き、パリの語学学校に通いながら毎日辞書を片手にフランスでの生活を体験しました。週末になると音楽仲間が楽器を持ち寄ってホームコンサートを開いたり、ご近所の方たちが気軽にアペリティフに呼んでくださって自家製のキッシュやピクルスを振舞ってくださったり、また、部屋の片隅にあるアンティーク家具の上にセンス良く飾られているオブジェが、なんと蚤の市で
見つけた掘り出し物だったり、部屋ごとに色やテーマがあり美しくコーディネートされていて、来客があるとマダムが家中を案内したりと・・・日常生活の中に芸術がさりげなく溶け込んでいるフランス流の小粋な暮らしぶりArt de vivreを肌で感じました。この初めてのフランス生活経験は、後に長期フランス留学を決意するきっかけとなり、現在経営しているサロン式フレンチレストランのコンセプト《芸術の生活化》の原点になっているように思います。
いま思えば、フランス語を習い始めて間もない頃でしたので色々と失敗もありました。ケーキ屋さんで「ミルフイユをください」と言ったつもりなのですが、言葉が通じなくて、仕方なく発音の分かりやすい「ガトー・ショコラ」を買って帰ると、その晩から「ミルフイユ(mille-feuille)」が「1000人のお嬢さん(mille filles)」に聞こえてしまう私のフランス語を、フランソワは食卓で笑いながら何度も直してくださったり、洗濯機の使い方を知らずに高温で洗い、純白でふわふわのタオルが縮んで雑巾のようになってしまっても、パトリシアは懇切丁寧に手順を紙に書いて教えてくださったり・・・「フランスが好き!フランス文化を勉強したい!」という日本からやってきた学生の私を温かく見守ってくださいました。遠い存在だった憧れのパリでの生活にも慣れ、人々と言葉を交わす中で、庶民的で人間味溢れる「素顔のパリ」に出会うことが出来ました。今回の『パリの空の下』は、そんなパナムの素顔を見せてくれる歌。料理も気取らず、簡単で美味しいものをご紹介させて頂きたいと思います。
■「ポタージュ・サンジェルマン ア・ラ・ジャポネーズ」
材料【 Ingrédients 】たっぷり4人分
枝豆(冷凍も可)200g / 玉ねぎ(中)1個 / じゃがいも(中)1個 / 豆乳 200cc / 水 500cc /
鶏がらスープの素 小さじ1 / オリーブオイル 適量 / 塩・こしょう 適量 / 生クリーム(お好みで)適量【 作り方 Recette】
①玉ねぎは薄切りにし、じゃがいもは皮をむいて5mm程度にスライスする。
②鍋にオリーブオイルを入れ、①と枝豆を弱火で焦がさないよう、よく混ぜて炒める。
③②の中に、水、鶏がらスープの素を入れ、具が柔らかくなるまで20分ほど煮る。
④③を火から下ろし、少し冷めてからミキサーで攪拌し、漉して滑らかなペーストにする。
⑤④に豆乳を入れ、弱火で煮立たせないように気をつけながら温め、塩・こしょうで味を整える。
⑥お好みで生クリームを加える。「ポタージュ・サンジェルマン」はグリーンピースのスープで、ルイ16世の軍務大臣サンジェルマン伯爵によって考案されたと言われています。そしてベースとなるのは「ヴィシソワーズ」と呼ばれるじゃがいものポタージュですが、実はこのポタージュ、アメリカ生まれだというのです!ニューヨークのリッツカールトンホテルのフランス人シェフが、子どもの頃に飲んだスープを再現したものなのだそうです。スープの残りにミルクを加えて冷製ポタージュにしたお母さんの知恵から生まれたレシピーには故郷ヴィシーの街の名が付けられ「ヴィシソワーズ」と呼ばれるようになったというエピソードがあります。今回は、グリーンピースの代わりに枝豆を、牛乳の代わりに豆乳を使うことで「和」の香りを楽しめるヘルシーなスープに仕上げてみました。そして『パリの空の下』の曲で語られている恋心をイメージしてハートのモチーフを描き、遊び心たっぷりのポタージュに。出来上がったポタージュを少量取り分け、豆乳または生クリームを少し加えて飾り用のクリーム色のポタージュを用意し、コーヒースプーンで丁寧に一摘ずつ垂らし、楊枝などの先で上から線を描くことで可愛らしいハートの模様が出来上がります。是非、お試しください!
■「ハンバーグステーキ カフェ・ド・パリ風」
【 材料 Ingrédients 】
〈ハンバーグステーキ:4人分〉
牛豚挽肉 400g / 牛薄切り肉 4枚 / 玉ねぎ(中) 1個 / 全卵 1個 / ニンニク(みじん切り) 1片分/
パン粉 大さじ3 / オリーブオイル 適量 / 塩・こしょう 適量〈カフェ・ド・パリ バター〉
バター 450g / 玉ねぎ 1/4個 / 卵黄 2個 / パプリカ(赤)1/2個 / ニンニク 3片 / アンチョビ 3 枚 /
ケッパー 大さじ2 / 粒マスタード 大さじ1 / パセリ・バジル(みじん切り)各大さじ1 / レモン汁
小さじ1 / コニャック 小さじ1 / カレーパウダー ひとつまみ / 塩・こしょう 適量※フレッシュハーブが入手できれば、エストラゴン・ローズマリー・タイムなど少量加えると香りが引き立ちます。
【 作り方 Recette】
〈ハンバーグステーキ〉
①熱したフライパンにオリーブオイルを入れ、玉ねぎとニンニクを透き通るまで弱火で炒め、出来上がったら冷ましておく。
②①に挽肉、全卵、パン粉、塩・こしょうを加えてよく混ぜ合わせ、ハンバーグの形を作る。
③②で出来たハンバーグを牛の薄切り肉で包み、フライパンで焼き色をつけたら、オーブン(200℃)
で約20分焼く。〈カフェ・ド・パリ バター〉
①パプリカ1/2個は、網の上で焼き、皮が真っ黒になるまで焦がしてから冷水で皮を洗い流しておく。
②玉ねぎ、皮をむいたパプリカ、ニンニク、アンチョビ、ケッパー、パセリ、バジル、レモン汁、コニャック、カレーパウダーをフードカッターに入れてよく混ぜ合わせる。
③②の中に、室温に戻して少しやわらかくなったバター、卵黄、粒マスタード、塩・こしょうを加え、
さらに混ぜ合わせる。フランスのカフェの定番メニューは?というと・・・ちょっと意外な気がしますが「ステーキのフライドポテト添え(Steak frites)」なのです。今回ご紹介する「カフェ・ド・パリ バター」という合わせバターはスイスのジュネーブにある、その名も「カフェ・ド・パリ」というレストランで考案されたもの。ヴィシソワーズと同様、こちらも海外で考案されたレシピー。ハーブや香辛料、パプリカ、アンチョビなどを混ぜ合わせたコクのあるバターです。下準備はフードカッターで全ての材料を攪拌し、食品用ラップフィルムで包み棒状に形成するだけの簡単な作業。そして焼きたての肉料理の上にカットしたバターを添えると、熱でゆっくりと溶けて美味しいソースになります。この合わせバターは冷凍保存することもできる上に、魚貝やじゃがいも等とも相性がよいのでアイディア次第で様々にアレンジ出来、とても便利です。
さて、『パリの空の下』の原文を読んでみますと、庶民的で人情味溢れるパリの素顔が見えてきます。登場人物は「恋人たち、哲学者、ミュージシャン、聴衆、流浪の民・・・」と様々。パリに魅了された多くの人たちがパリの空の下で歌い、セーヌ河で船乗りが奏でるアコーディオンの調べはパリの空に希望の花を咲かせ、神の鳥たちが世界中からやってきてお喋りをする、また時にはノートルダム寺院の付近で事件が起きたりもするけれど心配ご無用、陽気に流れるセーヌは夜になると流浪人たちをも寝かしつける、それがパリ。そして人々の様子を高いところから見守っている「パリの空」は、というと実は秘密があって、2000年も前からサンルイ島に恋をしているというのです! サンルイ島が微笑むと空は青い服を着て、悲しいことがあると雨を降らせる、そして街行く恋人たちにジェラシーを抱いて雷鳴をとどろかせることも。けれどもパリの空はいつまでも気を損ねている訳ではなく、そのお詫びに虹を贈ってくれる、という素敵なストーリー。空(le ciel)は男性名詞、島(l’île)は女性名詞。これらの名詞は文法的には男女の性別とは関係がありませんが、しかし人間の恋物語を暗示しているかのよう。そして「空」の色といえば「青」、フランス語で “avoir les yeux bleus(青い目をしている)” といったら、それは「誰かに恋をしている」ということ・・・ですね!
『パリの空の下』を聴きながら、パリ風の家庭料理、
どうぞ素敵なひとときをお過ごしください!
BON APPETIT ボナペティ!
渡邊みき Miki WATANABEフレンチ・レストラン&文化サロン「レスプリ・フランセ」経営。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、 フランス・グルノーブル大学に留学。フランスの生活文化に興味を持ち、音楽・料理の分野で翻訳者、通訳コーディネーターとして活動。フランス料理をダニエル・マルタン氏に師事し、2002年サロン式フレンチレストランを湘南にオープン。 2005年には南フランス・ヴァランスの3つ星レストランMAISON PIC(メゾン・ピック)にて企業研修の機会を得る。レストラン業務に加え、コンサート・音楽サロン・フランス語講座などを企画運営、湘南における「料理と音楽」の文化交流の場となることを目指す。幼少の頃からクラシック音楽を学び、シャンソンをパトリック・ヌジェ氏に師事。現在、レストラン経営と平行してシャンソンやフレンチ・ポップスを原語で歌う活動をしている。
レスプリ・フランセ 神奈川県藤沢市鵠沼海岸7-7-11
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